大判例

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大阪高等裁判所 平成5年(う)393号 判決

本店所在地

大阪市中央区船場中央三丁目一番七-二一七号

株式会社

マツバヤ

(代表者代表取締役 木田茂)

右の者に対する法人税法違反被告事件について、平成五年三月二五日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告会社から控訴の申立てがあったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 松田達生 主席

主文

本件控訴を棄却する

理由

本件控訴の趣意は弁護人家郷誠之作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官松田達生作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、量刑不当の主張である。

そこで、所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討する。

本件は、婦人服卸売業や飲食業等を営む被告会社が、昭和六三年三月一日から平成元年二月二八日までの事業年度における所得の一部を秘匿して、内容虚偽の確定申告書を提出して、右事業年度における法人税額のうち四億二二二〇万余円を免れたという事案である。ほ脱の方法は、被告会社所有の土地建物の売却取引に関し、債務超過状態のダミー会社を仮装介在させて固定資産売却益を圧縮するという巧妙なものであり、ほ脱金額は巨額で、脱税率も高率(八七パーセント強)であることを考えると、犯情ははなはだ芳しくなく、被告会社の刑事責任を軽くみることはできない。

なお、所論は、被告会社は、昭和六三年八月から岐阜市内で経営を開始したファミリーレストラン「夢幻亭」に関し、開業準備、広告宣伝などのために、一億五〇万円ないし一億一四六〇万円以上を支出した事実がある、すなわち、〈1〉豚骨ラーメンのだし粉末とそのノウハウ代金合計四〇〇〇万円、〈2〉レストランの建物基礎部分の設計料四〇〇ないし八〇〇万円、〈3〉レストラン駐車場造成工事代金四〇〇万円、〈4〉開業パーティ費用一五〇万円、〈5〉開業時の割引きセール期間中の警備料五〇ないし六〇万円、〈6〉従業員確保のために開業日までに支払った空給料三〇〇〇ないし四〇〇〇万円、〈7〉新聞社主催の花火大会における花火代五〇万円、〈8〉その他従業員募集費用など二〇〇〇万円を前記事業年度中に簿外経費として支出しているので、正規の法人税額はその分減少するはずである旨指摘し、これを量刑上考慮すべきであると主張する。

ところが、右主張に符合する証拠としては、被告会社代表者である木田茂の平成四年一〇月一六日付け検察官に対する供述調書(検察官請求番号一三五)並びに原審及び当審における公判供述があるのみで、領収書など客観的に証明する証拠は提出されていないばかりか、右主張のような支出があったのであれば、本件ほ脱を巧妙に目論んだくらいの被告会社としては、税理士に相談するなどして、経費として損金経理をするはずであり、「レストラン業は失敗するとの噂に反発して、簿外経費として支出した。」旨の木田茂の当審における公判供述はにわかに信用し難いところである。

仮に、前記主張のような簿外支出があったとしても、これらを子細に検討すると、被告会社代表者において支出先を頑強に明らかにしようとしないもの(前記〈1〉)、主張金額を特定できないもの(前記〈2〉〈5〉〈6〉)、法律上損金経理をすることが前提である減価償却として処理すべきであったもの(前記〈2〉)、資本金が二〇〇〇万円の被告会社では損金として認められる交際費は年間三〇〇万円であり、確定申告時にすでにこれを超える交際費を申告しているのであるから、さらに上積みした交際費は損金として認められないところ、性質上交際費に該当すると考えられるもの(前記〈4〉)、その明細すら明らかにできないのが金額で四分の三以上を占めるものなどがあり、主張のとおりの金額で簿外支出があったとは到底みなすことはできないのであり、しかも、これらに比してほ脱金額がはるかに高額の本件においては、量刑判断の上でもそれほど過大に評価するのは相当でない。

また、所論は、被告会社が、本件ほ脱のために、前示ダミー会社の取締役であった者(被告会社の代表取締役でほ脱の共犯者)に対し謝礼等として八六五〇万円を支払っており、これも被告会社の経費に該当する旨指摘し、量刑上考慮すべきであると主張する。しかし、このような支出については、ほ脱に対し刑罰をもって臨んでいる法人税法がこれを禁止していることは明らかであり、損金の額に算入することは許されず、量刑上も被告会社に有利な事情として考慮することも相当ではない。

そうすると、原判決が「量刑事情」で指摘するとおり、被告会社の代表取締役において、本件が起訴された後(平成四年一二月一〇日付けで税務署受付け)に修正申告をした上、先日付小切手により、本来の税額及び附帯追加税のほぼ全額にあたる六億一〇〇〇万円を分割納付していること、被告会社の最近の営業状態など、被告会社に有利と思われる事情を十分しんしゃくしても、被告会社を罰金一億円に処した原判決の量刑(求刑罰金一億三〇〇〇万円)はやむを得ないのであって、重過ぎて不当とはいえない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 長岡哲次 裁判官 大越義久)

○ 控訴趣意書

被告人 株式会社マツバヤ

右の者に対する法人税法違反被告事件について、控訴の趣意は左記のとおりである。

平成五年六月一六日

右弁護人 家郷誠之

大阪高等裁判所第五刑事部 御中

被告人株式会社マツバヤを罰金一億円に処するとの原判決は以下の理由によりその量刑が重過ぎて不当である。

一、被告人会社の本来の業種は婦人服卸業であるが、昭和六三年八月からは岐阜市内にファミリーレストラン夢幻亭を開店して、飲食業の業務も行って今日に至っている。

しかして、被告人会社は右飲食店の開店に当り、昭和六三年三月一日から平成元年二月二八日までの事業年度において、被告人会社の帳簿に計上されていない次の出損を行なった。

1.四〇〇〇万円 トンコツラーメンのダシの粉末とそのノウハウ代金

2.四〇〇万円乃至八〇〇万円 夢幻亭の基礎部分の設計料

3.四〇〇万円 夢幻亭第二駐車場造成工事代金

4.一五〇万円 開業パーティー費用

5.五〇万円乃至六〇万円 開業から十日間行なった五円セール期間中のガードマン警備料

6.三〇〇〇万円乃至四〇〇〇万円 開業日までに支払った従業員(一〇名)に対する空給料

7.五〇万円 岐阜新聞社主催花火大会打上げ花火代

8.二〇〇〇万円 夢幻亭店員募集費、その他の広告費等

以上合計 一億五〇万円乃至一億一四六〇万円

二.被告人会社代表者木田茂は昭和六〇年に脳血栓で一度倒れ、昭和六二年七月一四日脳内出血で意識を失って日本橋病院に運ばれ同病院に同年八月二七日まで入院し以後今日に至るまで、同病院に通院して投薬の治療を受けているものであり、夢幻亭開店の当時被告人会社の同業者らは右の如き病みあがりの同人が大金を投じて行うレストラン業は失敗する等と噂したりしていたので木田茂はこれに反発して、できるだけ経費のうち後日問題にされかねない分については木田茂個人が出捐した形をとって、被告人会社の帳簿に記載しなった。しかし右支出はその性質上被告人会社の経費とみるべきものであること明らかである。

三.被告人会社は本件不動産取引に関し、いわゆるB勘屋として共犯者太田幹夫が営む延喜堂有限会社を実際の売買契約当事者間に介在させ、あたかも同会社が正規の契約当事者であるかのように装い、同会社と被告人会社との間で売買代金一七億七七五万円とした虚偽の不動産売買契約書を作成し太田幹夫らに対し手数料乃至謝礼として金八六、五〇〇、〇〇〇円を支払った。

四.法人税法はその二二条一項において、「内国法人の各事業年度の所得の金額は当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」と規定し、更に同条三項において「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き次に揚げる額とする。

1.当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額

2.前号に掲げるものの他、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く)の額

3.当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」

と規定するのみであって右にいう損金の意義については、定義的規定ないし一般的規定を設けることなく、個々の事項につき、同法二三条以下において、ある事項については損金に算入し、ある事項については損金に算入しない旨規定しているにすぎない。よって前記手数料乃至謝礼は違法支出であるが、法人の所得計算上、これを損金の額に算入することができるか否かは法解釈としては争いのあるところである。

よって、以上の損金的支出合計一億八七〇〇万円乃至二億一一〇万円を控除すると被告人会社の脱税額は大幅に減少することとなる。

弁護人は勿論前記違法支出を損金に算入しないことを非難するものではないが少なくとも量刑にあたっては右の事実も斟酌されるべきと思料するので本件控訴に及ぶ次第である。

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